山口啓太、藤野隆晃
静岡県熱海市で山あいの住宅街を襲った大規模な土石流。地元の住民で組織する消防団員たちは、被災者であり、避難を呼びかける立場にもあった。彼らはどのような光景を見たのか。
3日午前10時過ぎ、逢初(あいぞめ)川上流付近にある市消防団第4分団の詰め所。建物の3階で暮らす分団員で建築業の山田裕之さん(32)が異変に気づいた。
「シャー」
タイヤが滑るような音に外を見ると、詰め所の山側に土砂や木が流れ着き、道路を長さ10メートルほどにわたってふさいでいた。スマートフォンで撮影し、分団のグループLINEに送った。
分団員の建築業一木(いちき)航太郎さん(21)は小高い場所にある自宅で画像を受け取った〈図〈1〉〉。
この日、朝から地鳴りのような音が聞こえていた。
「雨の音かな」。そう思っていたころ、2枚の画像が山田さんから届いた。150メートルほど離れた分団の詰め所から、「出動」を意味するサイレンが鳴り響いていた。
一木さんは4月に入団したばかりで、出動はこの日が初めて。母と弟、妹に雨が収まるまで自宅にとどまるよう伝え、紺色の消防団服に着替えて家を出た。本来は安全のために2~3人一組で避難を呼びかける。だが、分団員の父親は仕事で不在のため、1人で行くしかなかった。
「避難してください!」
土砂が川を下ってくると考え…
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Source : 社会 – 朝日新聞デジタル